幻獣図鑑 ウェアウルフ

ウェアウルフ  WEREWOLF

英語表記でのwerewolfのwereは男を意味するラテン語のvirが語源にあるとされる。were=男とwolf=狼というわけだ。この言葉は中世初期1020年頃を境に広まったとされる。その姿は狼の頭の人を持つ者や、狼の姿に完全に変わるもの、人の顔に狼のように毛むくじゃらになるものがある。日本語で書き表わすなら人狼と表記すれば分かり易いだろうか、直接的な表現のwolf man(狼男)とすればアメリカの映画に起因する現代の良く知られた狼男像が顔を出すのでここでは人狼に統一する。

また、wereはwerewolfからの派生によりwere+動物の名前の形式で、were-tiger(人虎)やwere-bear(熊人)等の表現を生み出した。良く知られるワーウルフもwerewolfのカタカナ表記であるが、ウェアウルフの方が本来の呼びに近い。まあ日本では幻想物の創作に使用するなら気に入った呼称を用いて全く問題ないだろう。(残念ながら、カタカナ表記をより発音の近い言葉に近付けようと、発声が良くなる都市伝説は蒐集されていない)

日本では狼の特徴を持つ人型の幻生物を一様に人狼として受け入れているが、実際には世界各地でその特徴や生態は異なっている。ドイツのヴァラヴォルフ、ギリシャのライカントロープ、フランスのルー・ガルー、黒海の北方に住んでいたネウロイ人、スラブ人に伝わるヴルコドラク、北欧のウールブへジン、イタリアのルポ・マナロ、ロシアのフセスラフ、インドネシアのアンジン・アジャク、アメリカ生まれのウルフマン。例に挙げるにしても数が多くこれらは一部である。ここでは主にイギリス、ウェールズでのウェアウルフについて取り上げる。

ウェールズ語で書かれた色濃くケルト文化の影響が残るアーサー王の物語にゴーラゴン王の話がある。この話は女性の本性についてアーサー王がゴーラゴン王に尋ねるものになるが、ゴーラゴン王はアーサー王の問いに対し狼に変わったある王の話を話始めるのだ。

その王は、王が生を受けると共に芽を出した不思議な宿命を持つ若木を持っていた。若木には、その枝を切り落とし細い方を王の頭に向けて叩き「狼の体になれ、狼の知力になれ」というとその通りになってしまう力があった。王はその事が心配で頻繁に若木の元に通う事になるのだが、彼に不貞を働こうと企む王妃に目を付けられてしまう。王妃の策略により王は若木によって狼に変えられてしまうのだが、王妃は言い回しを間違えてしまう。狼になれといったものの、その言葉に続けて人間の知力になれといったのだ。

こうして王は狼の体に人の知力を持つ人狼となった。人の知性を維持した王は復讐を果たし人の姿にも戻り、アーサー王も何やら感銘を受けたのだが、ここでの人狼の特徴はウェールズ人は生まれついての宿命によって人狼に変わることがあるという一つの言い伝えである。ケルトの樹木信仰に合わさって狼もまた役割を持っていたのだろう。

他にもアーサー王の話にはメリオンという狼に変わる護符を持つ英雄の話がある。こちらもゴーラゴン王同様にアイルランドの美女に手痛い目に合わされる話になるが、護符というからにはその用途は本来狼の力を得るという役割と考えていいだろう。王も英雄も、狼の姿になり復讐を果たしているのだ。(そもそも女に裏切られなければという話には目を瞑ろう)このウェールズの話に限らないが、人狼とは半ば呪いでありながら狼の力を受ける、或いは守護者からの恩恵としての側面を持つのだ。彼らは狼に変わりながらも狼を忌避することがないのが、その証左であろう。話の中で狼との間に彼らは子供を作っている。ゴーラゴン王など仔狼たちが死んで苦しみ狂ったほどだ。

しかし、後世に下るにつれて人狼はキリスト教圏で敵として広まることになる。それはキリスト教の僧侶ナタリスが狼の遠吠えで彼の説法に応じたアイルランド人を、人狼として呪った話からも明確に分かる。同じく僧侶パトリキウスもまた、ウェールズの王 ヴェルティカス を人狼として呪った。アイルランド人は狼の遠吠えから恨まれて人狼とされたからにはヴェルティカス王も狼と関りがあったのだろう。残念ながら資料が見つからず推測にしかならないが。こうして信仰としての狼の形はキリスト教徒の間では完全な呪いに姿を変えたのだ。

そのままケルトの伝承が忘れられ中世に至ると、werewolfが創作に花を咲かせ魔女裁判等に人狼が一緒くたに巻き込まれるようになる。するとヨーロッパの狼の戦士達はその鳴りを全く潜めてしまった。魔女裁判が露にする人の疑心からくる排斥と私刑。それらキリスト教徒の病的な様に、古来の人狼の伝承を無視したイギリス人によって狂犬病から来る迷信とそれらは断じられた。そうして狂犬病による影響を受けたwerewolfは、人を噛み病を伝染し、人が人でなくなる凶悪なイギリス圏の怪物ウェアウルフとしてその種を確立させたのだ。

 

 

参考文献
アーサー王とゴーラゴン王
立命館大学が翻訳 ネット公開あり

スラヴ人における人狼信仰
伊東一郎 著 – 1982 ネット公開あり

The Book of Were-Wolves 著者S. Baring-Gould 1862年
英語版ならネットで公開あり

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